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マンションの耐震診断
マンションを買う

耐震化の第一歩!マンションの耐震診断について分かりやすく解説

現在お住まいのマンションや購入を検討しているマンションが地震や災害に耐えられるのかどうか、心配な方は多いと思います。

分譲マンションは建築基準法により、耐震基準が定められております。その耐震基準は1981年の改定で基準が大きく引き上げられており、旧基準で建築されたものは「旧耐震基準」、新基準で建築されたものは「新耐震基準」と呼ばれます。
耐震基準については過去にも取り上げていますのでご覧ください。
進化する耐震基準を学んで地震に強いマンションを知ろう

旧耐震基準のマンションは、全国で約106万戸も存在しており、耐震性能は新耐震基準のマンションに比べると劣っている可能性があります。安心した生活を送るためにも、まずは建物の耐震性能を調べる「耐震診断」で調査してはいかがでしょうか。

しかし、耐震診断を実施して「耐震改修工事は必要ない」と判断できれば安心できて良いのですが、「耐震改修工事が必要」となった場合には、工事を行うかどうか、再度マンションの管理組合で決議を取る必要があります。物件の規模により異なりますが、耐震改修工事は高い場合には数億円にも及びますので、マンション管理組合にて「耐震改修工事は行わない」と決議されることも少なくありません。

今回は、不動産業界歴22年、現在中古マンションの売買を担当している筆者が、

  • 耐震診断の概要
  • 耐震診断結果の見方
  • 耐震診断の結果を受けての対応

を中心に、マンションの耐震診断について分かりやすく解説いたします。ぜひ参考にしてください。


1.耐震診断とは建物の耐震性能を数値化すること

耐震診断とは建物の耐震性能を設計図面や現地調査により数値化することです。
構造設計ができる1級建築士事務所におこなっていただくのが一般的です。

その数値を基に

  • 耐震改修の必要があるのか?
  • どのような方法でどの範囲改修工事をおこなうのか?

といった具体的な耐震改修プランを決めることができます

また、旧耐震基準のマンション購入を検討されている方には、このマンションを購入して良いかどうかの判断材料の一つになります。


2.マンション耐震診断の概要

マンションの耐震診断

2-1.耐震診断の流れ

耐震診断は設計図をもとに調査範囲等を決定するため、まずは設計図の確認をおこなう必要があります。
一般図、構造図、地盤調査資料等、保管されている資料を全て揃えることから始まります。

その後、耐震診断調査会社(一般的には構造設計ができる設計会社)数社に見積もり等を依頼し、最終的に、管理組合にて下記の事柄について決議します。

  • 耐震診断を行うかどうか
  • 耐震診断を行うのであればどの設計事務所・会社を選択するか

所有者および議決権の過半数の合意がなければ耐震診断は行うことができません。

2-2.耐震診断の費用

耐震診断の費用は概ねこれくらいです。

【鉄筋コンクリート造、延床面積1,000㎡~3,000㎡程度の場合】
およそ1,000円/㎡~2,500円/㎡

※診断に必要な竣工図、構造図があった場合の目安です。竣工図や構造図が無い場合にはさらに費用がかかります。
※診断レベル(第一次、第二次、第三次があります)によっても異なります。

コラム:耐震診断はなぜ実施されないのか?

国土交通省平成30年度マンション総合調査結果(平成31年4月26日公表)によれば、耐震診断を実施したマンションは全体の34%とまだまだ少ない状況です。

ではなぜ耐震診断ができていないのか?
その問題点は2つあります。

  1. 耐震診断の費用が捻出できない
  2. 他所有者の合意形成が難しい

1)耐震診断の費用が捻出できない

上述のとおり、耐震診断にはおよそ1,000円/㎡~2,500円/㎡の費用がかかり、一般的なマンションでは数百万円から1,000万円前後の出費となることがあります。

この費用は一般的に修繕積立金からの支払いとなります。修繕積立金は長期修繕計画により、計画的な修繕に利用される積立金になりますが、ほとんどの管理組合は「耐震診断」を長期修繕計画に組み込んでおらず、そのため積立金不足により耐震診断ができておりません

2)他所有者との合意形成が難しい

耐震診断はマンション全体で行うため、管理組合の負担となり、実施するには総会における普通決議(※)が必要となります。
※普通決議・・・区分所有者及び議決権の各過半数にて決議

耐震診断をおこなった結果、数値が低かった場合、「マンションの耐震性能が低い」という結果から資産価値が低下すると考える方もいます。また、購入検討者が耐震性能をみて不安を感じ、購入を断念するという可能性もあり、そのことから資産価値が下がると考える方もいます。
費用を払って耐震診断を実施した結果、資産価値を下げることになってしまうのであれば、最初から耐震診断を行わなければ良いと耐震診断を行うことに反対する方も決して少なくはありません。

また、耐震診断をおこなう費用があれば、他の修繕をおこない、計画されている修繕積立金の値上げを抑える方が良いのではないかと考える方もいます。

このようなことから他所有者の合意形成が難しくなり、耐震診断がおこなえなくなります。


3.耐震診断結果の見方:Iso値(構造耐震判定指標)とIs値(構造耐震指標)に注目

耐震診断の結果は、下の図のような表に記載されます。

耐震診断結果

耐震診断結果の例

診断結果表で重要なのはIso値とIs値です。

Iso値は現在の建築基準法により設計される建物と同程度の耐震性能を表す指標です。
第一次診断法、第二次診断法、第三次診断法の、実際に採用された診断レベルによって異なりますが、数値の基準は以下の通りです。

  • 第一次診断法:Iso=0.8
  • 第二次診断法・第三次診断法:Iso=0.6

※地域や地盤により補正されることがあります
※第一次診断法、第二次診断法、第三次診断法については5-1参照

そしてIs値は耐震診断をおこなった場合の建物の耐震性能を表す指標です。
つまり、このIs値とIso値の比較が判定結果となるのです。

  • Is≧Iso…現在の建築基準法に合った耐震性能
  • Is<Iso…現在の建築基準法を下回る耐震性能

判定欄に「〇」や「▲」あるいは「×」といった結果が表記されるので、この欄を確認しましょう。

また、「X方向」と「Y方向」は建物の方向を示しています。

X方向Y方向

この表により、どの部分がどの程度、耐震性能が低いのか把握することが可能となります。


4.マンションの耐震診断結果を受けての対応

耐震診断結果を基にして、耐震補強工事をおこなうかどうかの判断をしていくようになりますが、耐震診断同様、耐震補強工事にも大きなハードルが2つあります。

  1. 費用
    1戸あたり300万円~500万円程度が必要になります。
    ※マンションの形状や補強内容により金額は異なります。
     
  2. 他所有者の合意形成
    共用部分を形状や効用の著しい変更の場合には特別決議が必要になります。
    ※特別決議…所有者及び議決権の各3/4以上が必要
     
    このような内容が反対意見として挙げられることが多く、合意形成は大変困難です。

    • そこまでの費用を出したくない
    • 補強工事により日当たりや眺望が悪くなる
    • 補強工事中に仮住まいが必要となるケースがある
    • 建て替えを検討すべきではないか

5.参考:耐震診断の内容

最後に耐震診断ではどのような調査を行うのか、詳しく内容を説明します。
耐震診断の流れは以下のようになります。

  1. 予備調査
  2. 現地調査
  3. 診断結果

調査項目は全部で12項目あり、診断レベルによりどの項目を調査するのかが決定いたします。

5-1.予備調査について

予備調査は主に5つの調査項目があります。

1)建築物の概要調査

【マンションの名称、所在地、用途、設計者、施工者、工事監理者、竣工年、階数、高さ、構造構造形式、基礎形式、面積、階高、平面や立面の特徴、主な外装と内装、敷地の地盤や地形】などを調査します。

2)設計図書等の有無

どの設計図書や報告書が残されているかを調査します。
【一般図、構造図、構造計算書、仕様書、設計変更図、地盤調査報告書、老朽化調査等】

3)建築の履歴

【被災履歴、増改築の有無、現在の使用状況等】を調査します。
主に聞き取り調査によっておこないます。

4)現地調査について

現在の状況により現地調査ができるかどうか、また現地調査を実施する場合、作業の妨げとなることがあるのかどうかを調査します。

5)診断レベルの設定

耐震診断には3つのレベルがあります。

  • 第一次診断法(壁の多い建物に適する)
  • 第二次診断法(主に柱、壁の破壊で耐震性が決まる建物に適する)
  • 第三次診断法(主に梁の破壊や壁の回転で耐震性が決まる建物に適する)

それぞれ計算レベルが異なるため、どの診断法を選定するか調査、検討します。
一般的には第二次診断法を実施するケースが多く見受けられます。

5-2.現地調査について

現地調査には主に7つの調査をおこないます。

  1. 使用状況や建物環境の調査
    目視により使用の状況や改修工事の有無などを調査します。
     
  2. 基礎、地盤の調査
    目視により建物の傾斜や地形、地盤などを調査します。
     
  3. 劣化状況調査
    目視により劣化状況や補修の必要箇所などを調査します。
     
  4. 躯体ひび割れ状況調査
    劣化状況やひび割れの有無、ひび割れの幅などを調査します。
     
  5. 部材調査
    設計図と今の状況とを見比べ整合性を調査します。
     
  6. コンクリート強度試験
    コンクリートの一部を採取し圧縮強度試験により調査します。
     
  7. コンクリート中性化深さ試験
    コンクリートの一部を採取し中性化の進行具合を調査します。

調査内容は診断レベルにより異なってきます。
第二次診断法、第三次診断法を選択した場合にはこの7つ全ての調査をおこないます。


6.まとめ

安心できる住まいに

耐震改修を促進するために、「耐震改修促進法」が平成25年11月25日改正され、規制緩和などが盛り込まれていますが、マンションの耐震診断や耐震改修工事は合意形成や費用の問題で進んでいないのが現状です。
また、耐震診断や改修工事を見据えた長期修繕計画の見直しや修繕積立金の改定にも限度があります。

しかし、いつやって来るのか分からない地震に備え、住まいの安全性を確認することは災害への備えの第一歩です。
行政によっては耐震化を促進するために耐震診断や耐震改修に対しての助成金制度を設けているところがあります。また、助成金以外にも耐震化への相談窓口を設けているところもあります。
耐震診断や耐震改修をご検討されている方は、まずは県や市の担当窓口に問い合わせてみましょう。

また、耐震診断や耐震改修は、管理組合の総会で提案することになります。
総会の流れや決議については、こちらの記事でも詳しく解説しておりますので、合わせて確認してみましょう。

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