2024年4月より相続登記申請が義務化されます。これは、現在相続登記が未登記の不動産がたくさんあり、誰が所有しているのかわからない土地や建物が多いという問題への対策として施行されるものです。
2022年6月現在ではまだ相続登記申請が義務化されていないということもあり、相続登記が未登記の不動産を売買したいという相談をいただくことがあります。
不動産は相場が変動するため、現金と違って分けにくい財産になることがあります。そのため、相続登記が未登記の状態で現金化したいケースがあるのはよくわかるのですが、実際には、未登記の不動産を売買するのは難しいのが現状です。
そこで今回は、未登記の不動産を売買することが難しい理由と、相続登記申請義務化への備えについて、日々の業務でマンション売買を手掛ける筆者が解説いたします。
1.相続登記が未登記の不動産売買は、法律上は可能だが実際にはほとんど行われない
相続が発生し、登記の手続きをする前に、亡くなった方が所有していた不動産を売却したいという相談は結構あります。
結論から言うと、相続登記が未登記の売買は法律上可能ですが、未登記の状態で実際の取引が行われることはほとんどありません。
以下では、その理由を説明します。
1-1.未登記物件は売買契約上の売主が確定しないため、トラブルになるリスクがある
不動産の取引では、最終的に買主名義で所有権移転登記の手続きを行います。登記を行うことで初めて、第三者に対して、自分が所有者だと主張できるようになります。
不動産の売買契約書には下記のような所有権移転についての条文があります。
売主は、買主に対し、売買代金全額の受領と同時に本物件について、買主の名義に所有権等の移転登記申請手続きをします。
つまり、契約上、所有権移転登記申請は売主の義務になります。
登記手続きは実態に基づいて行われます。そのため、相続が発生すると、相続登記を行い、相続人(売主)の名義になったあとで、所有権を買主名義に移転させなければなりません。
相続登記が未登記の場合、【売主=相続人】が確立されていないため、万が一、相続登記ができない場合には、契約違反としてトラブルになってしまうリスクがあります。
そのため、実際の不動産取引では、相続登記が完了した後で売買契約を締結するのが一般的なのです。
1-2.相続登記申請中であっても、リスク回避のため売買契約は行わないことが多い
では、相続登記を法務局に申請した後であれば、登記が完了するのは時間の問題だけなので、良いのではないか?というご意見をいただくこともあるのですが、こちらについても1章同様に実際の取引はあまり行われません。
というのも、相続登記の申請を提出した場合、登記完了するまでは登記簿の内容を確認することはできません。
そのため、登記完了までに第三者が何らかの要因によって所有権を妨げるような権利(仮差押など)の登記手続きが行われていた場合、全ての登記が完了後、初めて発覚するということになります。
もし、所有権の妨げになる登記があった場合は次の購入者に所有権移転するまでに、売主の責任で抹消手続きしなければいけません。万が一抹消手続きができない場合には契約違反となってしまいます。
こういったリスクがあるため、登記手続き申請中といえども契約手続きを行うことはほとんどありません。申請後、登記が完了してから契約手続きを行うのが一般的です。登記手続きには申請から約1ヵ月程度かかります。
2.[スムーズに相続登記をするために]相続手続きの期限と相続財産の分け方について
ここまでご説明したように、相続された物件を売買する前に、登記を済ませてしまう必要があります。
しかし、相続登記を行う前に「誰がその不動産を相続するか」を決める相続協議が長引くと、いつまでも登記が進まないという事態に陥ってしまいます。
この章では、スムーズに相続登記を行うための前提である、相続手続きについて解説します。
相続手続きで確認しておきたいのは、この2点です。
- 相続手続き期限までに何をしなければならないか?
- 「誰がどの財産を相続するか」を決定する
2-1.各種相続手続きの期限
相続を行うための手続きには、それぞれ期限があります。
主な手続きの期限は下記の表をご覧ください。
期限 | 必要手続き |
---|---|
死亡を知った時から7日以内 | 死亡届の提出 |
死亡日から14日以内 | 住民票の抹消届 |
世帯主の変更届 ※被相続人が世帯主かつ残された世帯員が2名以上の場合 | |
相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内 | 被相続人の所得税の準確定申告 |
自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内 | 相続についての選択 -限定相続※・相続放棄・単純相続の承認 |
死亡日の翌日から10ヶ月以内 | 相続税の申告 |
※限定相続について
相続財産には現金や国債、証券など資産価値がプラスとなる資産もあれば、借金のようにマイナスになる資産も含まれます。限定相続はプラスとなる財産と同額内までマイナスとなる財産を相続する方法です。
相続の手続きは期限があり、期限内に進めなければいけないのですが、その前の、「誰がどのような財産を相続するか」を決める段階で揉めてしまうと、長期化してしまうこともあります。
特に相続税の申告の期限を過ぎてしまうと、相続税の延滞税がかかったり、税金の軽減制度などが利用できないといった別の問題も発生してしまいます。
2-2.相続財産の分け方
続いて、「誰がどの財産を相続するか」を決める基本的なルールをご説明します。
遺言書があるかどうかで考え方が変わってきます。
[1]遺言書の内容がもっとも優先
相続は死亡された方の意思が最も尊重されます。そのため、生前に遺言書を残していれば、遺言書の内容に従って相続されます。ただし、遺言書の書き方などによっては無効となることもありますので、注意が必要です。
[2]遺産分割協議により相続分を決定
遺言書がない場合は、相続人や相続財産の調査をしたうえで、遺産分割協議によって誰がどの財産を相続するかを決定します。
法定相続人には、それぞれ法定相続分が法律上定められています。ですが、法定相続分はあくまで協議の参考となる目安であり、相続人全員の合意があれば自由な割合で遺産分割を行うことができます。
- 法定相続人
法律上定められた相続人のことです。
- 常に相続人…配偶者
- 第一順位…子ども・孫(直系卑属)
- 第二順位…両親(直系尊属)
- 第三順位…兄弟姉妹
<相続のルール>
配偶者と第一順位がいれば第一順位のみ
↓
第一順位がいなければ配偶者と第二順位のみ
↓
第二順位もいなければ配偶者と第三順位
- 法定相続分
法律上定められた各相続人の取り分のことです。
- 配偶者と第一順位が相続人の場合…配偶者1/2、第一順位1/2
- 配偶者と第二順位が相続人の場合…配偶者2/3、第二順位1/3
- 配偶者と第三順位が相続人の場合…配偶者3/4、第三順位1/4
遺産分割協議は相続人全員の合意が必要になり、法定相続分とは異なる割合で不動産の相続登記を行う場合には遺産分割協議書を作成して全員の実印・署名を揃える必要があります。そのため、合意が取れない場合には、決定するまでに長い時間がかかってしまうケースもあります。
相続登記の義務化に備えて、相続人をスムーズに決められる対策を
相続登記が完了していれば、不動産は何ら問題なく売買できますが、相続登記が完了していない未登記の不動産の売買を行うことは実務的には、ほとんどありません。
それほどまでに「登記」は重要なことです。
2024年4月以降は相続登記が義務化されますが、義務化になったといっても、登記の前提となる相続協議がスムーズに進むか?揉め事なく相続登記を行うことができるか?は、別の問題です。
相続でトラブルにならないためにも、不要な不動産は早めに売却して現金化するか、誰がどのように相続するのか事前に決めておくという生前の対策が、相続登記が義務化になる今後、より重要になってくるのではないでしょうか。
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