photo by jeff horne
2018年の夏、東~南の空に見える明るく赤い星は<火星>です。この年は火星が地球に大接近して明るく見えています。
こちらの記事で解説していますので、火星が気になる方はぜひご覧ください。
→くらしの歳時記【2018年7月・文月】
空、そしてその先の宇宙は、毎日がドラマです。
満天の星空を翔けるような地球への帰還シーンが印象的だった、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ」の後継機「はやぶさ2」が地球スイングバイに成功、NASAでは「ニューホライズンズ」が9年もの長旅を経て冥王星に到着、その神秘的な姿を私たちに見せてくれたのは記憶に新しいところ。
また折々に繰り広げられる日食や月食、流星群などの天体ショーは、深遠な宇宙の営みの一端をみているようでワクワクしますよね。最近ではTwitterやFacebookなどのSNSでも天文現象の情報や写真がたくさんシェアされるので、目にしたことがあるのではないでしょうか。
「でも天体観測って専用の機材が必要だし、街中じゃ無理でしょ?」
そう考えるのは早計というもの。もちろん、最適な場所や機材によってより高精度な観測ができるのは事実ですが、わざわざ遠くまで出かけたり高価な機材を購入したりせずに、自宅のベランダや窓から見上げるだけでOK!
空を見上げる場所があれば、そこが宇宙への入り口。自宅が宇宙につながる楽しみを味わってみましょう。
今回はベランダからはじめる宇宙の旅にご招待します。
都会は星が見えない?
きらびやかな街灯りを映して、夜でも明るい都会の空。
星のような淡い光はかき消されてしまって、天体観測なんて到底無理…?
もしそう思っているのなら、今すぐその思い込みは捨ててください。
確かに、都会の夜空は天体観測に適しているとは言いがたいでしょう。でも、夜空の明るさを世界同時に観察するキャンペーン「GLOBE at Night」によると、東京都心部でも肉眼で2等星を観測できたという調査結果があるのです。このキャンペーンは市民参加型のため、参加者には天体観測のプロではない人も含まれます。それでも都会の空で星が観測できているのです。
断言しましょう。都心部でも天体観測はできます!
もちろん、よりたくさんの星を見ようとするなら、街灯りの少なくなる深夜の時間帯を選ぶ・灯りの影響を受けにくい高いビルの屋上や大きな公園に行くなどの工夫が必要ですが、明るい天体を見るだけなら時間や場所をそれほど気にすることはないでしょう。
特に月や、恒星より明るい惑星(金星や木星などのこと)は、都会でもそれ以外のエリアでも見え方は変わらないと言われます。
「GLOBE at Night」キャンペーンについて
始まりは、アメリカ国立光学天文台が2006年に開始した取り組み。
それに賛同する市民や教育関係者らによって大規模化、2009年からは更に拡大してDark Skies Awareness(国際天文学連合・ユネスコ・アメリカ国立光学天文台・国際ダークスカイ協会などの共同事業のことで、世界天文年の主要企画のひとつ)の一部となりました。もちろん、現在も行われていますよ。
日本では、国際ダークスカイ協会東京支部という団体が主導しています。規約を遵守すれば、誰でも日本語で簡単に参加できますよ。
カンタン天体観測・準備編
さっそく準備を始めましょう。
基本的には肉眼で空を見上げれば、それでOK。明るい天体はもちろんのこと、流星群のように肉眼で広範囲を眺める方が適した場合もあります。でも少しだけ事前に準備をしておけば、もっと楽しめるようになりますよ。
自宅から見える空の方角を正確に知る
「え、そんなこと!?」と驚かれるかもしれません。
でも大事なことなんです。
自宅の窓やベランダの方角、正確に把握していますか?節分の時に恵方は確認したことがあるという人はいても、窓の向きに関しては「昼間の日差しが入るから南方面に向いてる」とか「朝日が見えるからだいたい東」程度にしか把握していない人が多数派なのではないでしょうか。
天体は季節や時間、方角によって見えるものが違います。
身近なところでは月や太陽が昇ったり沈んだりする時間はもちろん、その方角もかなり変化していることを、日常生活の中で実感していると思います。いつも見上げる場所がどの方角なのかを把握することは、天体観測の大切な第一歩ですよ。
用意しておきたいもの
- コンパス
- 方角を確認するための方位磁石です。
スマートフォンのコンパスアプリでも機能としては充分ですが、このようなデジタルコンパスは持ち歩き中の衝撃や磁気を持っているものと干渉して狂うことがあるので、使うときにキャリブレーション(調整)をする必要があります。
機器の状態によってはうまくキャリブレーションできないこともあるので、屋外でも使用する予定があるのなら、コンパス単体の方が使いやすいで しょう。 - 星座盤
- スターウォッチングの必須アイテム。
日時をセットすることで、その場所でどんな星が見られるのかが分かるものです。
明るい星を蓄光インクで光らせることによって暗い場所でも見やすくした、耐水素材製のアウトドア仕様のものや、柔らかな色使いのものなど、さまざまなデザインや機能のものが発売されているので、自分好みの一品を探すのも楽しいですね。 - スマートフォンやタブレットの星座盤アプリを使うのも良いでしょう。
アプリならGPSや時計と連動するので、セットする手間なく情報が表示されて便利です。過去や未来、あるいは遠く離れた場所の星空も簡単に表示することができますよ。 - また、暗いところで使用するときにまぶしくないように表示する色を変更できたり、月食や流星群などの天文イベントをプッシュ通知でお知らせしてくれたり、空にかざすと星座盤が連動して動いたりと、デジタルならではの便利な機能も。ただし、電波が届かず通信できない環境では利用できないコンテンツが含まれるアプリもありますので、屋外で使う場合は事前に確認しておきましょう。
- どちらを使うにしても、夜にぶっつけ本番で使うよりは、事前にセットして見え方をシミュレー ションをしておくと、実際の空で星が見つけられやすくなるのでオススメですよ。
- 懐中電灯
- 観測場所で手元や星座盤を照らすのに使用します。
懐中電灯のような強い光が目に入ると観測に支障をきたすので、赤いセロファンを貼って明るさを抑えます。 - 防寒具・虫除けスプレー
- 暖かい時期でも夜は意外と冷えるもの。自宅のベランダや庭先で観測する場合でも、用意しておいた方が良いでしょう。冬場なら、さらにしっかりした防寒対策が必要です。
また夏の夜には蚊をはじめとする害虫対策も必要になってきます。虫刺されを気にしながらでは、楽しい観測ができませんからね。
カンタン天体観測・実践編
さあ、準備は整いました。外に出て空を見上げてみましょう。
天体観測は「見慣れること」がなにより大切。見慣れてくると、今まで見えなかった星も見つけやすくなりますよ。まずは明るく、見つけやすい天体からトライしてみましょう。
月は東に日は西に――月の満ち欠け
「菜の花や月は東に日は西に」
江戸時代の俳人・与謝蕪村の有名な句です。
西の空を茜色に染めて沈む太陽と、暮れ始めた東の空から昇り初める月の様子。それらに今を盛りと咲く菜の花を絡めることによって、穏やかな春の宵の情景、その空気感と豊かな色彩を端的に描き出した傑作といえましょう。
改めて言うまでもなく、月は私たちの住む地球の周囲を回る唯一の衛星です。
数多の天体の中で、誰しもにとって一番なじみ深いものではないでしょうか。全天中で太陽の次に明るく見えるので、空に出てさえいれば夜空の明るい都会でも簡単に見つけることができます。それゆえに古今東西、さまざまな神話や芸術作品のモチーフとなってきました。
ところで冒頭の蕪村の句の中で、昇りはじめた月はどんな形をしていると思いますか?
ヒントは、西の空に太陽が残っていること。
月の満ち欠けは太陽・地球・月の位置関係の変化によって起こります。この句のように太陽が沈んでいる時分に東の空に月が昇ってくるのは、地球を挟んで太陽と月がほぼ一直線に並んでいるとき。
つまり満月です。
ちなみにピッタリ一直線になったときは月食が起こりますよ。
黄昏の空に昇りはじめた春の満月。もしかするとそれは春霞のかかった朧月だったかもしれません。なんだかこの句の味わいが、よりいっそう深くなったような気がしませんか。
月をみる楽しみは、形の変化だけではありません。
地球照(ちきゅうしょう)という言葉をご存知でしょうか。月の欠けた部分が、地球に照らされてうっすら見える現象のことです。もちろん地球は自分で光を放っていませんから、照らしているのは地球が太陽から受けた光の反射です。
地球から見える月の欠けた部分=月にとって夜の部分ですが、そこを照らしているのがこの反射光。地球の夜を、太陽光を反射した月が照らすことと全く同じことが起きているのです。
つまり地球照は、星として地球が宇宙空間で放っている光を(間接的に)自分の目で見ることのできる唯一の現象 というわけです。私たちの住むこの地球も宇宙の星のひとつなのだと実感できる瞬間ですね。
この地球照は肉眼で見ることができます。
なるべく月の姿が細い時期(月齢3前後が見やすいといわれています)にじっと目を凝らしてみてください。うっすらと暗い月のシルエットが見えてきますよ。空気の澄んだ状態が見やすいので、秋から冬にかけての観測がオススメです。
ただし、細い月が空にかかるのは日没直後か日の出前。先に用事を済ませて夜遅くにゆっくりと……なんていう楽しみ方はできないので注意してくださいね。
また、近年ではスーパームーンと呼ばれる月もありますね。
TwitterやFacebookなどのSNSやニュースサイトなどで情報がシェアされるので、目にすることも多く、またそれをきっかけに月に興味を持った人もいるのでは。じつはこの「スーパームーン」ということば、正式な天文用語ではないと知っていましたか?
なんと「スーパームーン」は、元々は占星術の用語なんです。
それゆえ天文学的な定義はありません。近年話題になっているのは「月と地球が最接近するタイミングの前後で、満月となったとき」のことで、大雑把に言うと「満月のうちでいちばん大きく見えるもの」のことです。
いちばん最近のスーパームーンは2015年9月27日の満月でしたが、このときは欧米で皆既月食が同時に起こりました。残念ながら日本からは観測することができませんでしたが、大きな月が地球の影に隠れていく様子は、さぞ迫力があったでしょう。
このときのスーパームーンは、ふだんの満月の約14%大きく、約30%も明るかったそうですよ。
NASAがアニメーションでスーパームーンと皆既月食の仕組みを解説しています。
NASA | Supermoon Lunar Eclipse
一番星を探して――明るい星・惑星
天体観測といえば、星座の観測を思い浮かべる人が多いでしょう。
しかしオススメしたいのは惑星の観測。
惑星とは恒星(自ら光を放つ星のこと。また星座をかたちづくる星でもあります)の周りを回っている星のことを指しますが、観測に最適なのは太陽の周りを回る「太陽系惑星」のうち、5大惑星と呼ばれる水星・金星・火星・木星・土星。
これらの惑星は地球と距離が近いため非常に明るく、肉眼でも容易に見ることができます。また地上の光の影響を受けにくいので、空の明るい都会でもそれ以外の地域でも同じように観測ができると言われます。
例えば一番明るいのは金星ですが、もっとも明るく見えるときで-4.7等星です。恒星の中でいちばん明るいシリウスが-1.4等星、満月が-12.7等星、半月の時で-10等星前後ですから、いかに明るいかが分かりますね。まさに自宅のベランダや庭から観測するのに最適な天体といえるでしょう。
とはいえ、見え方自体はふつうの「とても明るい星」に過ぎません。図鑑に載っているような形や模様は、望遠鏡でないと見ることはできませんよ。
また、地球と同じように太陽の周りを公転している惑星は、恒星のように「時間や季節が巡ってくれば必ずこの方角に見える」ということがありません。語源が「惑(まど)う星」であるといわれるように、星座の中を不規則に動いているように見えます。
そのため星座盤には描かれていないので、観測の際は注意が必要です。逆に言えば、非常に明るく目立つのに星座盤に見当たらない星があれば、それは惑星であると見分けることができるわけです。
スマートフォンやタブレットの星座盤アプリなら惑星も収録されているので、惑星を観測するならこちらを利用するのがオススメですよ。
惑星を観測する醍醐味は、なんといっても惑星同士、あるいは月とのコラボレーション。
各々の公転周期のタイミングによって、短期間のうちにほかの惑星や月に近付いたり離れたりするように地球からは見えますが、特に大接近の際には、見かけ上の満月の大きさよりも惑星同士が近付いて見えることもあります。恒星なら明るさに負けて見えづらくなる月との大接近でも、惑星ならノープロブレム。明るく煌めく月の横で、惑星が堂々と輝きを競います。
このような惑星の動きは、最近では2016年1月下旬から2月中旬にかけて、明け方の空で5惑星と月が10年ぶりに並んだことが話題になりました。SNSにたくさん写真が投稿されたので、見た人も多いのでは。
まだ寒い立春の明け方の空に、大きなアーチを描くように一直線上に並ぶ惑星群は、それは見応えがありました。
このように「惑う星」の名に恥じない神出鬼没の惑星ですが、公転周期の分かっている現代では見える日時や場所をあらかじめ計算することができます。国立天文台の「今日のほしぞら」など、インターネット上で情報が公開されているので、使いやすいサイトを探してみてください。
宇宙開発は永遠のロマン――人工衛星
人工衛星は、文字どおり人工の衛星(惑星の周囲を周回する天体)です。「人工天体」といって、立派な「天体」のひとつなんですよ。私たちがふだん詳細な気象情報を知ることができるのも、NHKのBS放送やスカパー!の放送が観られるのも、カーナビでGPS機能がつかえるのも、クルーズ船上で快適なインターネット接続ができるのも、ぜーんぶ人工衛星のおかげ。
こんな風に知らず知らずのうちに生活に溶け込んでいる人工衛星ですが、肉眼で見ることができるって知っていましたか?
日の入り後・日の出前の数時間の空で、星々の間をゆっくりと動いていく光の点を見たことがないでしょうか。その光が人工衛星です。人工衛星そのものは光を発していませんが、この時間帯の上空ではまだ太陽の光を受けることができるので、それを反射して明るく見えるのです。
動いている速度は飛行機程度ですが、飛行機と違って光が点滅しないので、それで見分けます。
そんな人工衛星の中でも特に観測に最適なのが国際宇宙ステーションとイリジウム衛星 。このふたつは非常に明るく見えることで有名です。
国際宇宙ステーション(INTERNATIONAL SPACE STATION、略称:ISS)
ISSは地上約400km上空に建設された、有人実験施設です。人が居住するスペースがあることからも非常に大きく(サッカー場ほどの大きさなのだそう)太陽の光を受けてとても明るく見えます。また条件が揃うと目視できる時間も長いため、衛星観測の入門編としてもオススメ。
見つけ方はとっても簡単。
見え方予測をしているサイトがいくつかあるので(例えばJAXAのウェブサイトなど)今いるエリアで見える時間と方角を確認しましょう。半月ほど先までの見え方予測が出ているので、観測の予定も立てやすいですね。
スマートフォン・タブレットのアプリなら、任意の場所を登録しておけば起動時に自動で見えるスケジュールを表示してくれるものや、空にかざすとAR機能で実際の見え方をシミュレーションできるものなどがあるので、こちらを活用するとより簡単に確認できます。
仰角(地平線からの角度)が高いほど明るく見えますので、初心者は30度以上のパスからチャレンジ。時間になると、予測された方角から明るい光がすーっと滑るように動くのが見えますよ。もし光が点滅していたら、それはISSではなく飛行機ですので、探し直してくださいね。
観測に慣れれば、開けた場所で仰角20度前後のパスでも簡単に見つけることができるようになります。また条件が良ければ薄暮の時間でも見えますので、慣れてきたらいろんな条件や時間帯でチャレンジしてみましょう。
空に大きな弧を描きながら現れて去って行く光の中で、宇宙飛行士たちが実験や生活をしているのだと思うと、なんだかワクワクしませんか。
イリジウム衛星
イリジウム衛星は、現在、新しい機材に置き換えがすすんでいます。新しい衛星は、従来のものとは素材・サイズ・形が違うため、フレアはしません。同時に古いイリジウム衛星は、徐々に軌道を離れ制御できなくなるので、2018年末ごろにはイリジウムフレアの予測ができなくなると言われています。
ただし、この古い衛星がすぐに消えてなくなるわけではないので、暫くの間は、もしかすると夜空でフレアが見られることもあるかもしれません。
2018年9月19日追記
アメリカの衛星電話会社が打ち上げた数十機の通信衛星群、それがイリジウム衛星です。
この衛星には、鏡のように反射率の高い平らな金属製のアンテナが3つ搭載されていて、それに太陽光が反射して、金星の-4.7等星をはるかにしのぐ-9等星という、明るく輝く閃光を放つことがあります。これをイリジウムフレアと呼びます。
その強烈な明るさから、火球(非常に大きな流星)や時にはUFOと間違えられることもあるイリジウムフレアは、街灯りの賑やかな都会でも気軽に見ることのできる人工の流星として楽しむのがオススメ。
ISSと違って十数秒という短い時間のうちにぱっと閃いて消えていくので、非常に明るいのですが観測の難易度は少し高め。
また観測できる範囲もISSのように広範囲ではなく、地上の数十キロメートルの細い帯状の領域に限られ、その中心部から外れるほど光が弱くなります。しかしイリジウム衛星の場合は数十機もの数が上空を飛んでいる分、観測できるチャンスは多いので、最初はうまく見つけられなくても諦めずに何度かチャレンジしてみてくださいね。
イリジウム衛星は決まった角度で姿勢を制御されているので、衛星の位置・太陽の位置・アンテナ角度などから、どの場所でいつフレアが観測されるのかを計算することができます。ISSと同様、インターネットで検索したり、あるいはスマートフォンやタブレットのアプリを利用して容易に知ることができます。長くても十数秒間しか光らないので、AR機能で事前に見え方が確認できるアプリだと、より確実に観測することができるでしょう。
時間が来ると、予測された方角にゆっくりと動く光が現れます。その光が徐々に強くなり、やがてフレア状態に。そのあとは次第に減光し、消えていくように見えなくなる。
これがイリジウム衛星の見え方です。
もし光の強さに変化がなかったり、数分にわたって見えていた場合は、別の人工衛星だった可能性があります。またイリジウム衛星の中には姿勢がうまく制御されていないものがあり、想定したほど光を反射せずに予測通りの観測ができないこともありますので、その時は次の機会にチャレンジしてくださいね。
ひとつだけ注意したいのが、先述したとおり観測範囲が狭いので、見え方を予測するウェブサイトやアプリケーションソフトを利用する際は観測場所を正確に指定しなければ正しい予測結果が得られないという点です。例えば隣の市や町というだけでも見え方がずいぶん変わるので、思ったより暗くて見つけられなかった……なんていうことも充分ありえますよ。
写真に撮ってシェアしてみよう
実はここでご紹介した3つの天体は、高価で高性能な一眼レフカメラを使わなくても、コンパクトデジタルカメラでも、あるいはもっとお手軽にスマートフォンでも撮影できます。特にスマートフォンで撮影すれば、そのままお友達に送ったり、SNSでシェアしたりしてみんなに自慢できちゃいますね。
近年のスマートフォンに搭載されたカメラは性能が上がり、暗い場所での撮影も綺麗にできるようになりました。また目的別の撮影アプリをインストールすることによって、カメラの機能をさらにブーストさせることもできます。
これらを駆使して、素敵な天体写真を撮影してみましょう。
月の撮影
帰り道、ふと見上げた空に綺麗な満月を見つけたとき。手元にあるのがスマートフォンのカメラだけだったとしたら、どんな風に写真を撮りましょうか。
カメラアプリを起動して月に向けてパチリ……月が真っ白になってしまっているし、しかも光でぼやけて思っていたのと違う!なんて経験をしたことはありませんか。
そう。全天中で太陽の次に明るい月ですから、肉眼で見ている以上にカメラにとっては光が強すぎるのです。
そこで出番になるのが、露出とピントを別々に設定できる撮影アプリ。
手順は2ステップです。
まず明るいものに露出を合わせます。例えば自宅ならシーリングライト、屋外なら街灯の光などが良いでしょう。合わせたらその状態で露出をロック。その状態で月にカメラを向け、ズーム機能を使って月を拡大表示しピントを合わせて撮影。
これだけです。簡単でしょう?
上手くできれば、月の模様もうっすらとですが撮影することができますよ。
ただし、しっかりスマートフォンを構えておかないと上手くピントを合わせられなかったりボケた写真になったりするので、撮影をするときは手のブレを軽減するために手すりなどで腕を固定するか、スマートフォン用の三脚を使ってくださいね。
でも実は、スマートフォンのカメラで月を撮影するベストなタイミングは夜空で煌々と輝いている時ではなく、光の弱い時。例えば明け方の空にかかる細い月や、夕方早くに姿を現す上弦の月など、空が明るく、月の光とのコントラストが強すぎない時分。このタイミングなら、特別な撮影アプリや設定なしに綺麗な月の写真を撮ることができますよ。
人工衛星の撮影
仰角が高く見えるときのISSなら簡単に撮影できます。
必要なのは三脚などのスマートフォンを固定しておけるものと、バルブ撮影ができる撮影アプリのふたつ。
ちなみにバルブ撮影とは、シャッターボタンを押している間、ずっとシャッターを開き続けるという撮影方法です。そのためスマートフォンをしっかり固定しておかないと、ブレてしまって何が写っているのか分からない写真になってしまいますよ。
ISSに限らず人工衛星を撮影するときは、観測時間の少し前から準備を始めます。
あらかじめ見える方角と高さを確認して、撮影できる位置にスマートフォンをセットします。特にISSは見える時間が長いので、パスの全行程を写真に収めることは不可能です。フレームに入ってくる背景など、素敵に見えるポイントを探しましょう。あわせて、三脚をセットしやすい場所や灯りが少なく観測しやすい方角など、場所の確認も必須ですよ。
場所が決まればバルブ撮影のできるアプリを立ち上げておきます。
ここまで準備ができれば、あとはISSがカメラの撮影範囲に入る少し前からシャッターを切るだけでOKです。ISSの光跡だと分かりやすくするには最低でも10秒間ほど撮影しておきたいところですが、撮影時間を長くするほどに空も明るく写ってしまい、肝心のISSの光が見づらくなってしまった……ということにもなりかねません。周辺の街灯りが少ない場所での撮影ならば、数十秒間ほど撮影し続けてもそれほど明るくはなりませんが、街中の場合は何度か試してベストな撮影時間を見つける必要がありそうです。
バルブ撮影をするときはブレないようにスマートフォンを三脚などで固定しますが、シャッターを押すときの微細な動きも影響することがあります。スマートフォンの機種によってはイヤフォンがリモートレリーズ代わりになるので、対応する機種ならそちらでシャッター操作をするとより良い写真が撮れますよ。
星だって撮れる……頑張れば
さて、最後は難易度の高そうな星の撮影です。
とはいえ、金星や火星などの惑星は、基本的には空にカメラを向けてシャッターボタンを押すだけでそれなりに撮れます。月と接近しているときに同時に収めたいときは、最初にお話ししたように露出の設定が必要になりますが(月単体を撮影するときほどには露出を絞る必要はありません)もともと月の輝きに負けない強い光を放つ惑星は、街の夜景とコラボレーションさせて撮ってもそれなりに写ってしまうのです。
では街灯りの影響を受けやすい恒星は、どうでしょうか。
こちらはやはり難易度が高めでしょう。
おおいぬ座シリウスや、オリオン座のベテルギウスなど、1等星以上のとても明るい星ならば条件次第で惑星と同じように撮影することができますが、やはりそれより暗い星はスマートフォンのカメラで手軽に撮影とはいきません。
星空を撮影する機能に特化した撮影アプリがあるので、それを使って月明かりや街灯りの影響の少ない場所で撮影すればボンヤリとでも写ることもあるでしょう。画像編集アプリでコントラストをあげれば、それなりに人に見せられる写真になる可能性もあります。
お友達に送る程度ならあまり気にする必要はありませんが、SNSなどのインターネットにアップすると不特定多数の人がその写真を閲覧することになります。そのような状況で自宅が特定されるのは好ましくありません。そのために以下のような対策を講じましょう。
- カメラのGPS使用を許可しない設定にしておく
- 削除用のアプリで埋め込まれたジオタグを消す
- 自宅周辺の特徴的な建物が写り込まない角度で撮影する
カンタン天体観測+α
明るい天体の観測には充分慣れたから、もう少し先に進んでみたい。
そんな方向けに、プラスアルファのTIPSを3つ紹介しましょう。
TIPS01.目を星空モードに切り替える
天体観測の際に大事なことは暗さに目を慣らすことです。
月や惑星といった明るい天体を観測する時はあまり気にする必要はありませんが、それ以外の天体、例えば恒星は地球からの距離が遠いため見かけ上の光が弱く、大気の揺らぎや部屋の明かり・街灯・ネオンといった人工の光の影響を受けやすくなります。そのため部屋から出ていきなり空を見上げても、うまく星を見ることができません。
ヒトの目は明るさを感じる力を自動で調整する機能があり、暗い場所では瞳孔を開いて光の受容量を増やすと同時に、網膜の光への感度を上げようと働きます。これを「暗順応」と言います。
暗い場所に入った直後は見えなかったものが、時間の経過とともに見えるようになるのはこの機能のおかげです。明るい場所での調整(明順応)は瞳孔を閉じるだけなので数秒で完了しますが、暗順応は時間がかかり、完了するまでには30分ほどかかると言われています。
せめて15分は周囲の暗さに目を慣らすために待ちましょう。
同時に部屋の灯りは消す、街灯やネオンが近くにある場合は手で遮って視界に入らないようにすることが大切です。もちろん、手元のスマートフォンや、赤色セロファンを貼っていない懐中電灯の光も避けてくださいね。
ちなみに赤いセロファンを貼るのは、光量そのものを抑える目的もありますが、目への刺激が少なく、暗順応した目の細胞を明順応させにくい赤色の光に変えるためです。そんな天体観測に最適な赤色の光ですが、人によっては遠近感がつかみにくくなるので、足下の段差や溝を見落してしまう危険もあります。不慣れな場所で観測するときは安全面にも気を配りたいですね。
TIPS02.双眼鏡を使ってみる
肉眼で見るだけでもOK。
とはいえ、もうひとアイテムあればより楽しめるのでは?と思い始めた人にオススメなのが双眼鏡。天体観測といえば天体望遠鏡だと思っている人が多いのですが、意外と取り回しが難しく、しかもしっかり見えるクラスのものは高価です。
しかし双眼鏡ならば比較的安価で、持ち運びも取り回しも簡単です。天体望遠鏡のレンズよりは低倍率ですが、逆にその方が広い範囲を観測できて、お目当ての天体をうまく捉えることができない、なんていうこともないですよ。
双眼鏡を使えば月のクレーターや、肉眼ではモヤモヤの塊しか見えないすばるの星ひとつひとつを見ることができます。特にオススメなのは、月の地球照を見ること。欠けた部分の模様がハッキリ見える感動はなかなかのものです。
惑星の輝きや色も楽しめますが、土星の輪や木星の縞模様は天体望遠鏡でないと見ることはできません。
さて、その双眼鏡、天体観測用に選ぶにはいくつかのポイントがあります。
基本的なところでは、口径が50mm前後のもの ・倍率が7~10倍のもの ・手で持ったときに重くないもの (目安は1,000g前後)の3点。これは「充分に天体を観測できる性能があり、かつ手ブレをしにくい双眼鏡」であることを意味します。
双眼鏡は口径は大きいほど明るく、倍率は高いほどよく見えます。しかし口径が大きくなれば重くなって手ブレを起こしやすく、レンズが高倍率になるほど手ブレの影響を受けやすくなります。そこで性能を犠牲にしない範囲で、取り扱いしやすいサイズのものを選ぶ必要があるのです。
天体観測に最適な双眼鏡を販売しているメーカーのサイトや、ショッピングサイトのユーザーレビューなどを参考にしながら選ぶと良いでしょう。
TIPS03.天体観望会に行ってみる
双眼鏡の見え方でも満足できない!ということなら、天体観望会にいってみましょう。
科学館や天文台、高等学校以上の学校などでは定期的に開催されていて、個人ではとても所有できないような大きな天体望遠鏡で空を見せてくれます。専門の方による解説や、より深い楽しみ方のコツなども聞けて楽しいですよ。
それ以外でも、観望会イベントは探せばたくさんあります。
例えば天文ファンの方たちによるものや、企業主催のイベントだったり、変わったところでは観望できるスペースを併設したカフェなんていうものまであります。東京や大阪などの、一見、天体観測に向かないんじゃないかと思われるような大都市圏でもたくさん開催されていますので、興味のある人はぜひお出かけしてみてください。
また観望会に行く前の予習として、プラネタリウムに行くのもオススメ。
最新のCGを駆使した全天周番組に惹かれるところですが、ここはぜひ解説員の方による星空案内を聴いてみてください。その季節の代表的な星の見つけ方や近々起こる天体ショーの解説など、豊富な知識をききながら楽しいひと時をすごせるでしょう。特に代表的な星の見つけ方は、帰宅した夜に試してみたくなることうけ合いです。
気をつけておきたいこと
最後に安全で楽しい天体観測ができるように、留意するべき点を確認しておきましょう。
安全の確保は最優先事項
自宅のベランダや庭で観測する場合はそう気にすることはありませんが、駐車場や公園などに出かける場合は安全を第一に考えてください。特に女性がひとりで人気のないところにいるのは危険です。必ず複数人で行く、男性も誘うなどの安全対策をとってくださいね。
また暗いと、慣れた場所でも足下がおぼつかなくなることがあります。近所だから大丈夫と過信せずに懐中電灯で明るさを確保するなど、怪我をしないように気をつけましょう。
ご近所への配慮
天体を観測するのは、当然のことながら、夜。
ご家庭によっては早い時間からお休みになる方もいらっしゃいますし、そうでなくても夜は声が響くもの。ご近所の方たちに迷惑にならないよう、静かに楽しみましょうね。大人数だと楽しくてつい声が大きくなったり、ひとりでも音楽を大きな音量でかけたり……ウッカリやってしまいがちですが、自分が楽しいからと周囲に迷惑をかけるのは絶対にダメですよ。
それから双眼鏡や望遠鏡を使用する時には、よそのお家に向けないよう気をつけてください。自分にそのつもりはなくても、相手からは覗かれているように見えて不快な思いをさせてしまうこともあります。あまり神経質になる必要はありませんが、マナーとして頭の片隅に置いておきましょう。
他人への配慮
自宅以外の場所で観測しているとき、同じように観測に来ている人がいるかも知れません。
不用意に懐中電灯などの光をだしたり、前を横切ったりしないようにしましょう。写真撮影をされている方なら、三脚に足を引っかけたりしないように注意もしましょうね。
なお、赤いセロファンを貼って対策をした懐中電灯であっても、水平以上には向けないことが大事です。足下の確認や星座盤を見るときには下向きに照らすだけで充分ですからね。
また、自宅以外の場所で観測するときは、そこが立ち入っても良い場所なのかどうかも確認してください。ただの空き地に見えても国有地や私有地であることも考えられます。誰もいないから、自分だけだから少しくらい平気、なんてことは絶対にありません。
◇◇◇
マナーを遵守して、安全で楽しい天体観測をしたいですね。
「天体観測」とは、学問的な視点をもって天体を観察・研究することで、この記事のように天体や夜空を見て楽しむことは、正しくは天体観望(あるいは天体鑑賞)といいます。
しかし一般的な言葉の知名度を鑑みて、当記事内では「天体観測」と表記しました。
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