住宅ローンの金利商品には大きく分けて固定金利と変動金利があり、どちらを選べば良いか迷う人も多いのではないでしょうか。これから金利が上昇すると考えられる場合には「固定金利型」、これから金利が下がると考えられる場合には「変動金利型」を選択することが基本的な考え方となりますが、詳しくは3-2.でご説明します。
今回はマンション営業10年目の筆者が金利商品を選ぶうえで基本となる固定金利と変動金利についてそれぞれの特徴やメリット・デメリットを比較し、各金利商品の選び方まで詳しく解説していきます。
1.固定金利と変動金利の違いについて理解しよう
住宅ローンの金利には大きく分けて固定金利と変動金利があり、どちらを選択するかによって後の返済計画にも違いが生じてきます。
まずは代表的な3つの金利タイプとなる「変動金利型」、「全期間固定金利型」、「固定金利期間選択型」の特徴をおさえておきましょう。
1-1.「変動金利型」の返済額は5年間変わらず、上がった時の上限は125%まで
変動金利型は半年毎に金利の見直しがあります。ただし、半年毎に金利が変動しても返済額はすぐには変わりません。返済額の更新は5年に1回となっており、その間に金利が上がっていれば、返済額も上がります。
一般的には変動金利型が金利タイプの中で最も低い金利設定となっています。変動金利型の金利は短期プライムレート※に連動します。※短期プライムレート:金融機関が優良企業に1年以内の期間で貸し出す際の最優遇金利のこと。
しかし、急激に金利が上昇したとしても返済額は見直し前の125%までが上限となるルールがあります。例えば、毎月の返済額が10万円の場合、見直し後の返済額の上限は12万5000円となります。ただし、ここで注意しておきたいのは金利が急上昇した場合、毎月支払うべき利息の金額が返済額よりも多くなると、未払利息が発生することです。未払利息が発生すると、返済額からローンの元金部分に充当される金額はゼロになり、利息だけを支払っていく状態となります。この未払利息は通常の返済とは別に支払わない限り返済終了時まで蓄積され、通常の返済が完了しても未払利息分のローンだけ残ってしまう可能性があります。
それでは、ここで未払利息が発生するしくみについて詳しく解説していきましょう。
【未払利息の発生するイメージ】
【未払利息の発生する流れ】
【未払利息が発生する事例】
※上記はあくまでも解説用の事例となりますので、実際の金利での元金と利息の内訳とは異なります。
1-2.「全期間固定金利型」は返済期間中の金利が固定され、返済額は変わらない
全期間固定金利型は借入時から完済時まで金利が固定されており返済額が一定のローンです。住宅金融支援機構の「フラット35」はこの全期間固定金利型の代表的な金利商品です。一般的にはこの全期間固定金利型が金利商品の中では比較的高い金利設定となっています。全期間固定金利型の金利は10年物国債利回りに連動します。
1-3.「固定金利期間選択型」の金利が固定されるのは一定期間のみ
固定金利期間選択型は3年、5年、10年など選択した一定期間のみ金利が固定されるタイプの金利商品です。 固定金利期間終了後には変動金利に切り替わる場合が多いため、変動金利の一種とみなすことができます。固定期間終了後は変動金利にするか固定金利にするかを借り手が選択します。固定期間が終了した時点の金利が上がっていた場合、返済額も上がります。一般的には固定金利期間が長い程、金利は高くなります。固定金利期間選択型の場合、変動金利型のような返済額の上限ルールはありません。(※)
※一部例外の金融商品もあります。
2.固定金利と変動金利のメリットとデメリットを比較
住宅ローンの代表的な金利タイプである「変動金利型」、「全期間固定金利型」、「固定金利期間選択型」には以下の表のようなメリットとデメリットがあります。金利タイプを選択する際にはそれらを理解したうえで選びましょう。
3.金利商品の選び方を理解しよう
金利商品を選択する際には各金融機関の住宅ローン商品特徴や金利動向などの判断材料となる情報を収集し、比較検討したうえでご自身のライフプランにあったものを選びましょう。ここでは金利商品の選び方について解説していきます。
3-1.店頭金利と適用金利の違いをおさえておこう
変動金利型や固定金利期間選択型の住宅ローンの広告や商品概要などを見ると、以下のような表示があります。これらは金利商品を選択するうえでの重要な判断基準となりますので、それぞれの意味を理解しておきましょう。それでは、以下の参考事例を使って各項目の意味を解説していきます。
①店頭金利
店頭金利とは、引下げが行われる前の各金融機関が設定している住宅ローンの基準となる金利です。金融機関によって表現が異なり、店頭表示金利、基準金利と表示されているものもあります。
②当初期間金利引き下げ幅
店頭金利から何%引下げてくれるかを示したものです。今では金利の割引が当たり前のように行われており、店頭金利のままで借りることはほとんどありません。この金利引き下げ幅は金融機関によっては「1.2%~2.4%」というように引下げ幅をもたせて審査次第で決められる場合もあります。
金利引き下げタイプには事例のような当初期間の引下げ幅が大きい「当初期間引下げタイプ」と全期間引下げ幅が同じ「全期間引下げタイプ」があります。
③適用金利
割引後の実際の金利となります。①店頭金利から②金利引き下げ幅を引いたものが適用金利となります。
店頭金利―当初期間金利引き下げ幅=適用金利
上記の事例では 3.4%-2.4%=1.0%【適用金利】となります。
ここで注意しておきたいのは実際に使われるのは融資実行時の金利となる場合が多いことです。新築マンションの場合、契約時から引き渡し時まで期間がありますので、この適用金利だけで判断すると実際の融資実行時には他の銀行の金利の方が安くなっていることもあります。
④当初期間終了後の金利引き下げ幅
上記の事例のような固定期間選択型の場合、当初10年間は店頭金利から2.4%引き下げられますが、11年目以降は店頭金利から1.2%引き下げとなり引下げ幅が縮小されます。実際には固定期間終了後の返済期間の方が長くなる場合が多く、総返済額にも大きく影響してきますので、適用金利と合わせて比較検討しておくことが重要です。
3-2.金利が上昇するときは固定金利、金利が下降するときには変動金利を選ぶのが基本
これから金利が上昇すると考えられる場合には全期間固定型か10年以上などの固定金利選択型、これから金利が下がると考えられる場合には変動金利型を選択することが基本的な考え方となりますので、金利動向を見ながら検討することをおすすめします。低金利時に固定金利型のローンを利用すれば、その後金利が上昇しても適用金利は低いままとなります。反対に高金利時に変動金利型のローンを利用すれば、市中金利が下がるにつれて適用金利も低下し、返済額も下がります。
次のグラフは住宅金融支援機構が調査した過去の民間金融機関の住宅ローン金利推移及びフラット35の金利推移を示したものです。全期間固定金利のフラット35よりも民間金融機関の金利水準が高くなっているのは主要都市銀行が掲げる店頭の基準金利の中央値を掲載しているためです。実際にはこの基準金利から各金融機関が設けた金利引き下げ優遇がありますので、例えば2019年2月現在基準金利2.475%−当初期間引き下げ幅2.0%=適用金利0.475%というようなケースが一般的となっています。あくまでも民間金融機関の基準金利がどのように推移しているかを見るようにしましょう。民間金融機関の金利推移を見ていくと変動金利ではここ20年ほどは金利の大きな変化がなく低水準で推移していることが分かります。また、比較的金利が高い全期間固定金利のフラット35でも近年では1%台前半で推移しており、過去最低水準を維持しています。まさに現在は超低金利時代と言えるでしょう。
またフラット35では平成29年10月1日より、機構団体信用生命保険付きの住宅ローンとなりました。よって、これまでの年払いでの団体信用生命保険特約料の支払いがなくなり、フラット35の月々の支払いに団体信用生命保険特約料の分(0.2%相当)が上乗せされ、金利に含まれることになりました。したがってその金利上乗せ分が下のグラフにも反映されており、直近の金利がやや上昇しているのはそのためです。
民間金融機関の住宅ローン金利推移
※出典元:住宅金融支援機構 民間金融機関の住宅ローン金利推移
※主要都市銀行のHP等より集計した金利(中央値)を掲載。なお、変動金利は昭和59年以降、固定金利期間選択型(3年)の金利は平成7年以降、固定金利期間選択型(10年)の金利は平成9年以降のデータを掲載。
※このグラフは過去の住宅ローン金利の推移を示したものであり、将来の金利動向を約束あるいは予測するものではありません。
フラット35の金利推移
※出典元:住宅金融支援機構 フラット35金利推移データを元に編集
※フラット35の金利は、返済期間21年~35年タイプ(融資率9割以下)の金利の内、取扱い金融機関が提供する最低金利の年間平均で作成
3-3.変動金利は将来の金利上昇リスクを想定したうえで選択しよう
変動金利型や固定金利選択型を選択する場合は将来の金利上昇リスクを想定したうえで選びましょう。マイナス金利導入による現在の低金利時代では、より金利の低い変動金利を選択すれば当初適用金利の低いうちに元金返済を進められる点では有利となります。しかし、金利タイプの選択は当初の金利の低さだけでは判断できません。今後金利が上昇するような動きになった場合のリスクを想定しておくことが必要です。変動金利型や固定金利期間選択型では、実際に金利が変動した場合、総返済額も変わります。
住宅金融支援機構の「住宅ローンシュミレーション」で下記の条件で試算してみました。
条件:借入額3,000万円・35年返済・元利均等返済・ボーナス払いなし・総返済額に諸費用は含まない
全期間固定金利1.4%・固定金利期間選択型(10年)1.0%・変動金利0.6%として試算
固定金利期間選択型は10年固定とし固定期間終了後、変動金利とする
※上記金利はあくまでも試算例であり、特定の金融機関の金利を示すものではありません。金利商品の適用金利は各金融機関にて審査のうえ、決定します。一般的には実際の借入金利は融資実行時の金利が適用されます。
金利が返済期間中ずっと変わらなかった場合と、5年ごとに金利が1%ずつ最大3%まで上昇した場合でシュミレーションしてみました。上の表のとおり全期間固定金利型は金利が変動しても総返済額に影響はありませんが、変動金利型や固定金利期間選択型は、金利が上昇した場合には総支払額が全期間固定金利型よりも大きく上回ってしまいます。当初の金利と返済額だけ見れば、変動金利型が有利ですが、今後の金利の動き次第では全期間固定金利型の方が有利になる可能性もあります。どのくらいの金利上昇であれば、支払い可能か予め把握しておくと良いでしょう。最終的にどの金利タイプが得なのかは実際に支払いが終わってみないと分かりません。もし、金利商品の選択で迷ったら、住宅ローンシュミレーションなどを利用して比較検討してみることをおすすめします。
4.金利タイプ別選択割合の動向から人気のタイプを検証してみよう
実際の住宅ローン利用者はどの金利タイプを最も選択しているのでしょうか。金利選択別割合の動向から人気のタイプを検証してみましょう。
4-1.変動金利型が全体の57%を占める
住宅金融支援機構の調査によると2016年度以降では変動金利型を選択する方が約半数を占めています。直近の2018年度調査では変動金利型が全体の57%を占めています。固定金利期間選択型も固定期間終了後は変動金利に切り替わりますので、こちらも変動金利の一種とみなすと変動金利が約8割を占めていることになります。2016年度以降、全期間固定金利型が最も少ない割合となっています。
(出典元:住宅金融支援機構 2018年度民間住宅ローン利用者の実態調査より編集)
4-2.固定金利期間選択型では10年固定が約半数を占める
固定金利期間選択型では2016年度以降10年固定が約半数を占めており、直近の2018年度においては10年超とあわせて約8割を占めています。
(出典元:住宅金融支援機構 2018年度民間住宅ローン利用者の実態調査より編集)
5.金利タイプ別おすすめ事例を紹介します
金利商品を選択する場合、各金利タイプの特徴や金利動向などさまざまな情報を収集し判断していく必要がありますが、最も重要視するべきなのはご自身のライフプランに合った金利商品を選択することだと思います。そこで、この章ではどのような人がどの金利商品に向いているのか各金利タイプ別にいくつか事例を紹介していきます。
5-1.変動金利型向きの方
・金利の急上昇にも対応できる余裕資金のある方は変動金利型がおすすめです。借入当初金利が低い間に元金の返済を進めていき、万が一金利が急上昇した場合は余裕資金を使って繰上げ返済すればリスクも最小限に抑えることができます。
・比較的借入額が少ない方は変動金利型がおすすめです。将来、金利が上昇しても、借入額が少なければ、金利上昇で受ける影響も少ないためです。
・10年くらいまでの短期間の住宅ローンの方は変動金利型がおすすめです。短期間で完済するため、金利上昇で受ける影響が少ないためです。また、当初10年間は住宅ローン控除※の適用を受けると、年末ローン残高の1%が所得税(所得税から控除しきれない分は住民税最高13万6500円まで)から控除されますから、金利上昇で受ける影響が少なくなります。
※住宅ローン控除について詳細はこちら
https://journal.anabuki-style.com/conditions-for-mortgage-deduction
5-2.全期間固定金利型向きの方
・借入額が多く、返済期間が長期の方は全期間固定金利型がおすすめです。借入額が多く、返済期間が長ければ、将来の金利変動の影響が大きいためです。全期間固定金利型にしておけば、将来金利が上昇するリスクがありませんので、家計を安定させることができ、計画的に貯金をすることができます。超低金利時代の今だからこそ、全期間固定金利型を選択するメリットがあると考えられます。
・預貯金が少なく、教育費などをこれから貯めて行く必要がある場合は全期間固定金利型がおすすめです。預貯金の少ない方が仮に金利の低さだけで変動金利を選択し、将来金利が急上昇した場合に繰上げ返済などの対応ができないためです。
5-3.固定金利期間選択型向きの方
・当初固定金利期間の間に完済できる方は固定金利期間選択型がおすすめです。当初固定金利期間中は優遇金利幅が大きい場合が多く、お得な適用金利で計画的に返済が進められます。しかし、固定金利期間終了後に金利が急上昇していた場合、変動金利のような返済額125%までの上限ルールがないため、返済額が大幅に上がってしまうリスクがありますから固定金利期間中に完済できる方に最適な金利プランだと言えます。
・住宅ローン借入後、一定期間は子供の教育負担が大きい場合などは固定金利期間選択型がおすすめです。教育負担が大きい一定期間は優遇された適用金利で計画的に返済を進められ、金利上昇リスクを避けることができます。ただし、固定期間終了後の金利上昇に繰上げ返済などで対応できる余裕資金がある方や固定金利期間中に完済できる方が前提となります。
6.まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は固定金利と変動金利について詳しく解説しました。将来の金利動向を予測することは困難ですから、どの金利タイプを選べば得なのかは実際に支払いが終わってみなければ分かりません。特に変動金利を選択する場合には、金利が上昇してきたときに繰上返済ができるような貯蓄を心がけておきましょう。変動金利では当初の適用金利が低くなっており、大変魅力となってはいますが、当初の優遇金利でないと支払いが厳しい方はもう一度予算から考え直した方が良い場合もあります。
金利商品を選択する際にはご自身のライフプランや家計を見直しておくことをおすすめします。しっかりと見極め、理想の暮らしを実現させてください。
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