万が一に備えて地震保険に加入している方はたくさんいらっしゃると思います。ただ、近年は多くの災害が発生することで、支払う保険料も上昇してきています。
そこで、支払う保険料の負担を軽減し、地震保険の加入を促進するために『地震保険料控除』という制度が作られています。
この制度を利用すれば、支払った保険料の一定額が所得から控除されて、所得税や住民税が安くなります。
この記事では下記の4点についてわかりやすく解説いたします。
- 地震保険料控除の対象となる2つの契約
- 地震保険料控除の対象とならない場合
- 地震保険料控除の金額と計算例
- 地震保険料控除の申告書の書き方と注意点
地震保険料控除の申告はとても簡単ですので、まだの方は、ぜひ申告をしてみてください。
↓記事の内容を動画で分かりやすく解説しています↓
目次
1.地震保険料控除の対象となる契約は2種類
まず、地震保険料控除の対象となる契約について説明します。
対象となる契約はこの2つです。
- 地震保険
- 旧長期損害保険
この2種類の契約を最も簡単に見分ける方法は、保険料控除証明書を確認してみることです。
保険の種類の欄に、「地震保険」や「旧長期」などと区分が記載されていますので確認してみてください。

それでは2つの違いを具体的に見てみましょう。
1-1 地震保険
地震保険とは、通常の火災保険では補償されない地震・噴火・津波を原因とする火災・損壊・埋没・流出による損害を補償する保険のことです。
つまり、地震を原因とする火災は基本的には地震保険でしか補償されません。また、火災保険とセットで加入する保険なので地震保険単独では加入できません。
詳しくは財務省webサイト「地震保険制度の概要」をご覧ください。
1-2 旧長期損害保険
「旧長期損害保険」とは、過去に損害保険料控除(長期保険料控除とも言います)の対象になった損害保険のことです。保険期間が10年以上、かつ満期返戻金があることが特徴です。
ただ、平成18年の税制改正で、平成19年分からの損害保険料控除が廃止されてしまいました。しかし、経過措置として以下の要件を満たす一定の長期損害保険契約等に係る損害保険料については、地震保険料控除の対象とすることができるようになっています。
<保険料控除の対象となる旧長期損害保険契約の条件>
- 平成18年12月31日までに締結した契約
(保険期間又は共済期間の始期が平成19年1月1日以後のものは除く) - 満期返戻金等のあるもので保険期間又は共済期間が10年以上の契約
- 平成19年1月1日以後にその損害保険契約等の変更をしていないもの
2.「別荘」「空き家」「投資物件」などは地震保険料控除の対象外
地震保険に加入していても地震保険料控除の対象とならないケースがあります。
常時住居として使用していない「別荘」「空き家」や、本人やその家族、親族が住んでいない賃貸用の「投資物件」などの地震保険契約は保険料控除の対象となりません。地震保険料控除はこの2点が条件となっているためです。
- 保険の対象が「常時居住用の住宅」であること
- 保険の対象の所有者名義が「保険契約者」または「保険契約者と生計を一にする配偶者か親族」であること
また、店舗などと併用している住宅の場合(店舗・事務所併用住宅など)は、居住部分のみが保険料控除の対象となります(対象となる地震保険料は、延床面積に対する住居部分の面積の割合を掛けて算出)。
3.地震保険料控除の金額は、所得税が最大50,000円・住民税が最大25,000円
地震保険料控除の最大額は下記のとおりです。
- 所得税:50,000円
- 住民税:25,000円
それでは実際に控除額を計算してみましょう。
実際の地震保険料は、数年間分をまとめて支払っているケースが多いと思いますので、今回は例として地震保険の契約期間を5年、その間の合計保険料を100,000円として計算してみます。
3-1 複数年分の保険料を一括で払った場合は、1年分に換算する
地震保険料控除の対象は、『その年の1月1日から12月31日までの1年間に支払った保険料』です。
しかし、今回の例のように支払う保険料を少なく抑えるために、複数年分の保険料を一括で支払う場合があります。その場合は、一括で支払った保険料額を保険期間(年)で割り、1年分に換算した額が毎年の控除対象保険料となります。
算出式 | 一括の保険料(円) | ÷ | 地震保険期間(年) | = | 一年分の保険料 |
---|---|---|---|---|---|
例 | 100,000円 | ÷ | 5年 | = | 20,000円/年 |
この20,000円を1年間に支払った保険料と見なし、控除額を算出することになります(旧長期損害保険の場合も同様です)。
3-2 地震保険料控除の金額
地震保険料控除の算出は、下記の表に当てはめて算出します。


※国税庁webサイト「タックスアンサー>地震保険料控除」・長野市webサイト「個人市民税・県民税(住民税) 控除の種類」より引用
<計算例>
3-1の通り、1年分の保険料は20,000円です。
- 所得税の控除額は、20,000円
- 住民税の控除額は、10,000円 となります。
3-3 旧長期損害保険控除の金額
旧長期損害保険控除の算出は、下記の表に当てはめて算出します。
地震保険料控除と異なり、控除額の上限が15,000円となります。


※国税庁webサイト「タックスアンサー>地震保険料控除」・長野市webサイト「個人市民税・県民税(住民税) 控除の種類」より引用
<計算例>
3-1の通り、1年分の保険料は20,000円です。
- 所得税の控除額は、15,000円
- 住民税の控除額は、10,000円 となります。
3-4 地震保険料控除・旧長期損害保険控除の両方がある場合
この場合は、地震保険と旧長期損害保険の契約が『同一契約』になっているか、『別契約』になっているかで変わってきます。
3-4-1 同一契約で加入している場合は、どちらかの控除しか受けられない
地震保険と旧長期損害保険を同一契約で加入している場合は、地震保険控除か、旧長期損害保険控除か、どちらの控除しか受けることができません。ただ、どちらかの控除を受けるかは自由に選択することができます。上記3-2・3-3の表に当てはめて、金額的に得をする方の控除を受けましょう。
今回の≪例≫で考えてみると、控除額が30,000円の地震保険控除を受けた方が得になります。
3-4-2 別契約で加入している場合は、合算して控除を受けることができる
地震保険と旧長期損害保険を別契約で加入している場合は、両方の契約を合算して、地震保険の年間控除限度額まで控除を受けることが可能です。上記3-2・3-3の表に当てはめてそれぞれの控除額を算出して合計し、所得税については年間50,000円まで、住民税については年間25,000円までの控除を受けることができます。


※国税庁webサイト「タックスアンサー>地震保険料控除」・長野市webサイト「個人市民税・県民税(住民税) 控除の種類」より引用
4.地震保険料控除の申告書の書き方
次に実際の申告書の書き方を説明します。
4-1 地震保険料控除証明書を手に入れて、年額保険料を確認する
地震保険料控除を申請するには『地震保険料控除証明書』が必要になります。一般的にこの証明書は10月頃に保険会社から郵送されてきます。
ただし、地震保険に加入した初年度については、この証明書が保険証券と一緒に送られてくることもありますので、大切に保管しておく必要があります。もし、紛失してしまった場合は、早めに保険会社に連絡して再発行をしてもらいましょう。
この証明書に記載されている、1年間に支払った保険料を申告に使用します。



4-2 年末調整で申告する場合
給与所得者は年末調整で申告することができます。
『給与所得者の保険料控除申告書』の『地震保険料控除』の部分を記入します。
- 保険会社名を記入します。
例) ▲▲損害保険 - 保険の種類を記入します。
例) 地震保険 - 加入した期間を記入します。
例) 5年 - 保険の契約者名を記入します。
例) ●● ●● - 加入した建物・家財を利用している人を記入します。
例) ●● ●● - 保険契約者との続柄を記入します。
例) 本人 - 保険料の区分を選びます。
例) 地震 - 控除証明書に記載されている地震保険料を記入します。
例) 20,000 - (8)のうちの地震保険料を記入します。
例) 20,000 - (8)のうちの旧長期損害保険を記入します。
例) 0 - (9)が50,000円以下の場合は(9)の金額を記入し、50,000円を超える場合は50,000を記入します。
例) 20,000 - (10)の金額を記入します。ただし、(10)の金額が10,000円を超える場合は、(10)×1/2+5,000円。
例) 0 - (11)+(12)の金額を記入します。
例) 20,000
実際に記入してみるとこのようになります。


4-3 確定申告で申告する場合
ここでは、令和4年分(令和5年に行う確定申告)を例に解説をしています。
紙での申告方法
確定申告書の第一表と第二表に、地震保険料と地震保険料控除額を記載する箇所があります。
- 確定申告書の第二表『(9)地震保険料控除』に年間の地震保険料を記入
確定申告書 第二表(タップすると大きな画像が開きます) - 確定申告書第一表、『所得から差し引かれる金額』の『地震保険料控除』の欄を記入
確定申告書 第一表(タップすると大きな画像が開きます)
Webでの申告方法
普段から確定申告をしている方や医療費控除・寄付金控除などを申告している方は、国税庁webサイトから利用できる「確定申告書等作成コーナー」で同じように地震保険料控除の申告ができます。
確定申告書等作成コーナーでは、順番に必要事項を入力していき、最後に内容確認ができる流れになっているので、申告書の作成も簡単に間違いなく行うことができます。
- 「確定申告書作成コーナー」から、普段の所得税の控除申請の手続きで入力を進める
- 「所得控除の入力」画面で「地震保険料控除」を選択
給与所得者の所得税控除入力画面 - 「(1)保険の種類」と「(2)地震保険料」を記入
- すべて入力すると、入力金額が自動的に反映された申告書を作成することができます。
また、令和元年分からの確定申告書等作成コーナーでは、2か所以上の給与所得がある方、年金収入や副業等の雑所得がある方など、スマホ専用画面をご利用いただける方の範囲も広がります。
- 国税庁webサイト「国税庁からのお知らせ>■スマートフォンでの申告がさらに便利」
- 国税庁webサイト「スマートフォンでの申告書入力の画面の流れ」
5.申告忘れ・間違いの場合でも、5年までさかのぼって対応可能
過去に地震保険料を支払っていたにも関わらず申告を忘れていた方や、この制度自体を知らなかった等の理由で申告をしていなかった場合にも、5年分はさかのぼって申告することができます。
それでは実際にどのようにして申告を行うのか見ていきましょう。
5-1 さかのぼっての申告は確定申告で行う
給与所得者の大半の人は、年末調整で税が計算されていますので、確定申告の必要はありません。ただ、納めすぎた税金がある場合に『還付申告』を行うことで納めすぎていた税金を取り戻せることがあります。具体的には、4-3で紹介した確定申告書Aを使った方法で申告を行います。
還付申告できる期間は、確定申告の期限の3月15日ではなく、その翌年の1月1日から5年間です。
例えば確定申告の提出義務者でない人が、2019年に地震保険料控除の適用漏れがあった場合、2024年12月31日まで、その還付申告を受け付けてもらえます。
5-2 既に確定申告をしていた場合は「更正の請求」を行う
法定申告期限後に、計算違いなど申告内容の間違いに気が付いた場合は、『更正の請求』という手続きができる場合があります。この手続は、更正の請求書を税務署長に提出することにより行います。更正の請求ができる期間は、原則として法定申告期限から5年以内です。
ただし、更正の請求にあたっては、すべて還付が行われるとは限りません。更正の請求は、税務署での審査があり、なおかつ請求が妥当なものだと認められないと受理されないようになっています。あくまでも審査を依頼するための請求ということです。
更正の請求手続きに必要な書類などは国税庁webサイト「所得税及び復興特別所得税の更正の請求手続」ページを確認してみてください。
6.地震保険金は原則非課税
地震保険に加入していた人が建物などの消失や損害を原因として受け取る保険金は、原則として非課税です。
例えば、地震保険金を200万円受け取って建物の修繕額が150万円かかった場合でも50万円の差額がありますが、非課税なので申告する必要はありません。ただし、受け取った保険金が非課税なのは非事業者の場合だけです。法人及び個人事業者で一定の場合は課税対象となるため、全額を収入として計上する必要があります。
7.まとめ
今回は地震保険料控除について説明しました。火災保険は所得税の控除の対象ではありませんが、地震保険は対象ですので、忘れずに申告を行いましょう。
また申告は過去5年間分はさかのぼって行うことができます。申告を忘れていたという方や、どうだっただろうかという方は、早めに手続きを行ってみてください。e-Taxを利用すれば簡単に申告書が作成できますよ。
地震保険料控除と同じように確定申告で申請する控除に、住宅ローンを使って住宅を購入した翌年に行う「住宅ローン控除」の申請があります。こちらの記事では、この住宅ローン控除の申請のための確定申告の手順を解説しています。確定申告の方法に不安がある方は、こちらの記事でご確認ください。