2021年4月に大気汚染防止法の一部改正があり、アスベストが含まれる建材の規制が厳しくなりました。これにより2022年4月からはリフォーム工事前のアスベスト調査が義務化されます。
アスベスト(石綿)は、断熱・耐火機能に優れていることから主に断熱材として利用されてきました。アスベストが使われている主な場所は壁の中や天井、外気に触れる部分などですが、パテ材やタイル目地、接着剤などにも含まれていることがあり、意外と広い範囲で利用されています。
そういった状況から、リフォーム工事が入ることが多いキッチン、浴室などには、アスベストが含まれる建材が利用されている可能性が高いので、リフォーム前にはアスベスト調査を行い、検出された場合にはアスベスト除去などの対策を行って安全な住宅にしていく必要があるのです。
今回は、中古マンションのリフォームを行っている筆者が、リフォーム前のアスベスト調査の必要性や調査内容、アスベスト調査の結果検出されたらどう対応するのかまで、分かりやすく説明します。
これからリフォームをお考えの方は、ぜひこの記事を参考にしてアスベスト調査を進めていただければと思います。
※この記事は2021年12月時点の情報を元に執筆しています。
1.大気汚染防止法の一部改正により、リフォーム工事前にはアスベスト調査が必須に
建物の解体やリフォーム工事を行う時にアスベストが飛散することを防ぐため、大気汚染防止法の一部が改正され2021年4月1日に施行されました。改正のポイントはこの2点です。
- 全てのアスベスト含有建材を対象に規制
- アスベスト除去作業に基準を設定
今まで不適切に行われていた除去作業によって、アスベストが飛散してしまうことを防止する目的での改正です。
また、2022年4月1日からは、下記の条件を満たすリフォームを行う場合、アスベスト含有建材の有無に関わらず事前調査を実施し、結果を都道府県等の行政機関へ報告しなければいけません。
- 建築物の解体をおこなう場合、対象の床面積が80㎡以上
- 建築物の改造、補修、工作物の解体、改造等をおこなう場合、請負金額合計が100万円以上
また、調査の方法も法定化され、調査結果の保存が義務付けられます。
2.アスベストの規制強化:建築年代がアスベスト含有建材が使われているかどうかの目安に
アスベストの使われ方は年代により変わってきました。建材に使われ出したのは明治時代からですが、1960年代の高度成長期には広く建物に使われ、1970年~1975年頃には年間30万トンを超えるアスベストが輸入されました。
一方で1970年代から発がん性の指摘が行われており、建材利用も徐々に規制されてきました。2006年以降は0.1%を超えるアスベストを含む建材の製造・使用等が全面的に禁止されています。
つまり、その建物の建築年代が分かれば、どのようなアスベスト含有建材が使用されているかを知る手がかりとなります。
【大きな法改正】
- 昭和50年(1975年) 5%を超える含有吹付を原則禁止
- 昭和55年(1980年) アスベスト含有吹付ロックウールの使用終了
- 平成07年(1995年) 1%を超える含有吹付を原則禁止
- 平成16年(2004年) 1%を超える含有建材、摩擦材、接着剤の製造禁止
- 平成17年(2005年) 1%を超える含有吹付の全面禁止
- 平成18年(2006年) 0.1%を超える含有建材の製造、提供、使用の禁止
3.リフォーム工事でのアスベスト調査の流れ
リフォーム工事前にアスベスト調査を行う場合、2段階の調査+必要に応じて追加調査と段階を踏んでおこなわれるのが一般的です。
アスベスト調査の費用は、リフォームの範囲やどんな建材が使われている建物か、調査を行う会社等の条件によって異なります。
3-1.書類調査:設計図書・施工図書で調査
最初の調査は書類調査です。設計図書などで、工事着手日および使用されている建材を確認します。使用された建材にアスベストが使用されているかどうかをデータベースなどの記録から調べます。
マンションの場合、設計図書あるいは竣工図書が管理組合にて保管されているか事前に確認しましょう。また保管されている場合にはどこに保管されているか?閲覧はいつできるか?なども確認し、調査会社に報告しましょう。
3-2.現地調査:書類調査に間違いがないか確認
設計図書などの書類調査が終われば次は現地調査となります。調査スタッフが直接お伺いし、室内に使用されている建材等が書類調査内容と相違ないか確認します。
書類調査でアスベストの含有がないと判断されたものが、現地調査で裏付けが取れれば、調査はここで終了します。
3-3.分析調査(必要に応じて実施):検体の採取場所によっては生活に影響が出ることも
書類調査及び現地調査で判断ができない場合には、検体を採取し、分析調査を行います。
検体は建材の一部をサンプルとして採取します。採取場所によっては日々の生活に影響が出ることがありますので、どこを調査するか事前に説明を受けるようにしましょう。
分析調査は「定性分析」と「定量分析」がありますが、まずは「定性分析」を行います。
定性分析 | アスベストの有無及び種類を調査します。 |
定量分析 | アスベストの含有率を調査します。 |
「定性分析」で微量にアスベストが検出された場合、含有率が現在の基準内かどうか調査する必要があるため、「定量分析」をおこなうようになります。
なお、分析調査に入ると、追加の調査費用が発生することになります。追加の調査費用も、どこまでのリフォームを行うのか、またどのような建材が使用されているかによって異なります。
3-4.調査報告書の発行:場所と危険性のレベルを確認
調査が終わると、アスベスト調査報告書が発行されます。
アスベストは危険性によって、3段階に分類されます。
レベル1(発じん性が著しく高く危険) | アスベスト含有の吹付け材など。 |
レベル2(発じん性が高い) | アスベストを含む断熱材、耐火被膜材など。 |
レベル3(発じん性が比較的低い) | その他(成形板等) |
※発じん性とは、粉じんの発生しやすさを指します。発じん性が高いほどアスベストの飛散リスクが高まります。
アスベスト調査報告書には、どの箇所でどのレベルのものが検出されたか、どの種類のアスベストなのかが記載されています。報告書でアスベストが含まれる場所を確認した上で、どのような飛散防止工事を行うのか決めることになります。
なお、この調査記録は3年間保存しておく必要があります。無くさないように注意しましょう。
4.アスベストが検出されたら、リフォーム工事の際に飛散防止の対策工事が必要
アスベストが検出された場合、リフォーム工事などを進めていくなら飛散防止の対策工事を行わなければなりません。
4-1.アスベスト飛散防止工事:3種類の工事を使い分け
飛散防止工事には3種類あります。
- 除去工事
アスベスト含有建材を全て除去し、他の建材に変更します
- 封じ込め
吹付け等の表面に固化剤を塗布または含浸し、吹付の表面あるいは、全てを被覆、固着します
- 囲い込み
吹付け等がある面を他の建材で覆い密閉します
4-2.工事費用:内容によって千差万別
アスベスト飛散防止工事の費用は、アスベストが使用されている場所や面積によって大きく異なり、高い場合には数百万円必要になります。必ず事前に見積もりを取り、このまま工事を進めるかどうか判断しましょう。
また、除去や封じ込め等の作業記録も工事終了後から3年間保存する必要があります。紛失しないように注意しましょう。
5.アスベスト調査は不動産価値に影響する可能性がある
もし含有建材が使用されていた場合、アスベスト飛散防止工事には多額の費用がかかります。
しかし将来、住まいを売却するとなった場合、アスベスト除去等の対策工事をしていれば、購入者はアスベスト対策をする必要なく購入することができます。一方、除去等の対策がなされていない場合には、購入者がリフォームをする前に対策工事を行わなければいけないため、購入を断念してしまうかもしれません。
また対策工事までできていなくとも、アスベスト調査の結果があればリフォーム時にどのような工事を行うことになるか費用の予測が立てやすいので、購入のハードルは低くできるでしょう。
つまりアスベスト調査を行うことが、売却時の不動産価格にも影響する可能性が高いと私は考えます。また、法改正により飛散防止工事の作業も厳しく定められていますので、対策工事済なら安心な生活が送れるということで、より人気の高い物件になるでしょう。
6.まとめ
2022年4月以降、一定規模の工事をおこなう場合にはアスベスト事前調査が義務付けられます。さらに、2023年10月1日以降はアスベスト事前調査をおこなう者が「有資格者」に限定されます。そうなれば、調査費用が高くなってくるかもしれません。
また、前章にも記載しましたが、アスベスト調査は、今後の不動産価格に大きな影響が出てくる可能性もあります。
そのため、将来的に住まいのリフォームや売却をお考えの方は、早めに調査依頼を検討してみてはいかがでしょうか。すぐにリフォームや売却を考えていない方は除去作業などの対策工事までおこなう必要はありませんが、アスベスト調査だけは実施しておくことで、将来の計画が立てやすくなるのではないでしょうか。
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