皆さんが仮に住宅を取得または新築されるとしたら、資金繰りはどのようにお考えになりますか?
検討される物件の価格によって異なりますが、高額な物件ですと、ご両親または祖父母からの資金援助も想定してお考えになる方も多いのではないでしょうか。
その際に気になるのが贈与税。
年間110万円までは基礎控除(暦年課税制度)があり贈与税の納税が必要ないことは一般的に良く知られていますが、住宅の資金贈与となると、多くの場合その金額を超えてしまいます。そうなると贈与税の納税が必要なのでしょうか?
実は、一定の手続きを取れば申告は必要ですが、納税は不要になります。
現在の税制では「住宅取得等資金の贈与税非課税制度」または「住宅取得等資金の相続時精算課税制度」があり、その制度を利用することで一定の金額までは、贈与税を非課税とすることができます。
ここでは、その制度を利用する際に、「これだけは知っておきたい」というポイントをお話します。
「贈与税非課税制度」とは~これだけは知っておきたい7つのポイント
父母または祖父母などの直系尊属から住宅取得等資金の贈与がある場合に適用できる制度です。
知っておきたいポイントは下記の7点。
贈与を受けた年の翌年の3月15日までに物件の引渡しを受けることができなければ、適用は受けられません。また同日までに住み始めるか、または住むことが確実であると見込まれ同年の12月31日までに住み始めなければいけません。
【注意】
ここでいう住宅の取得とは契約ではありません。
住宅の所有権移転(自分の名義になった)を取得としています。
中古物件の場合は、木造等耐火建築物以外は築後20年以内、耐火建築物は築後25年以内
【注意】
上記を超える場合も新耐震基準適合物件など、適用になる物件もありますので、検討している物件の営業担当の方に確認をしましょう。
上記以外に贈与を受ける方の年間所得金額が2,000万円以下という条件もあります。
この制度は年齢を問いません。例えば50歳の父母からの贈与も適用できます。別制度の「相続時精算課税制度」は60歳以上の年齢制限がありますが、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築、取得又は増改築等の対価に充てるための住宅取得等資金で一定の要件を満たすときには、同じく贈与者が60歳未満であっても相続時精算課税を選択することができます。
イ 下記ロ以外の場合
住宅用家屋の新築等に係る 契約の締結日 | 省エネ等住宅 | 左記以外の 住宅 |
平成28年1月~令和2年3月 | 1,200万円 | 700万円 |
令和2年4月~令和3年3月 | 1,000万円 | 500万円 |
令和3年4月~令和3年12月 | 800万円 | 300万円 |
ロ 住宅用の家屋の新築等に係る対価等の額に含まれる消費税等の税率が10%である場合
住宅用家屋の新築等に係る 契約の締結日 | 省エネ等住宅 | 左記以外の 住宅 |
平成31年1月~令和2年3月 | 3,000万円 | 2,500万円 |
令和2年4月~令和3年3月 | 1,500万円 | 1,000万円 |
令和3年4月~令和3年12月 | 1,200万円 | 700万円 |
【注意】
「省エネ等住宅」に該当するかどうかは、断熱性・耐震性・高齢者等配慮などの性能によって分かれます。どちらに該当するかは、検討している物件の営業担当の方に確認をしましょう。
暦年課税制度とは年間110万円の基礎控除額のことです。
住宅取得等資金の非課税枠 | + | 暦年課税制度基礎控除 | = | 非課税枠の合計 |
1,200万円 | + | 110万円 | = | 1,310万円 |
この制度の適応を受けるためには最寄りの税務署に申告が必要です。
申告の時期は贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日です。
「相続時精算課税制度」とは~これだけは知っておきたい2つの違い
前段の「住宅取得等資金贈与の非課税制度」(以後非課税制度と記載)と同様に、父母または祖父母から住宅取得等資金贈与がある場合に適用できる制度です。
適用条件も非課税制度と良く似ており、前段で紹介した(1)使用用途~(4)年齢制限 および(7)申告については、ほぼ同様とお考えください。
大きな違いは (5)非課税限度額 (6)暦年課税制度との併用 の2点です。
この制度では住宅の性能による限度額の違いはありません。
年間110万円の基礎控除との併用はできません。
【注意】
この制度は非課税限度額が大きいのが魅力ですが、相続時精算課税制度を利用した場合、その贈与者からの贈与に限ってですが、制度利用以降は年間110万円の基礎控除が使えない点は注意が必要です。また贈与者がお亡くなりになった場合には、相続時精算課税制度を利用して贈与された金額そのものが相続税の対象になります。贈与者が相続税の対象となる方はご利用にあたり十分注意が必要です。
この制度は非課税制度より限度額が大きいのが魅力です。
その反面、いったんこの制度を利用すると、以後はその贈与者からの暦年課税制度は使えない点はマイナスでしょう。この制度を利用する場合は、この2つの違いを理解しておく必要があります。
「贈与税非課税制度」と「相続時精算課税制度」との併用は可能?
答えは可能です。
ただし「相続時精算課税制度」は将来的に発生する相続の先取りであり、暦年課税制度が使えなくなるマイナス面もあることから、節税とはいえない面があります。そのため、まずは「非課税制度」を利用し、それでも足りない場合に「相続時精算課税制度」を利用するのが一般的でしょう。
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【注意】
「相続時精算課税制度」は相続発生時の相続税にも関係する制度です。
特にお手持ちの財産で、既に相続税納税の可能性がある方がこの制度を利用する場合は、専門の税理士の方への相談をお勧めします。
まとめ
仕事柄、住宅取得に関する様々なデータをよく目にしますが、近年は資金贈与の利用率が上昇しているように感じます。相続税制の改定などにより、「親/祖父母から子や孫に対する財産分与を、生前から適切に行いたい」と考える方が増えているという背景もあってのことと思います。
さて、今回は「住宅取得等資金贈与の非課税制度のポイント」および「住宅取得等資金の相続時精算課税制度との違いについて」を中心にお話しましたが、ご理解いただけましたでしょうか。
制度の細かい点まではお話していませんので、細部まで知りたい場合は専門の税理士の方に相談いただきたいのですが、住宅取得を検討し始めたばかりの方は、この記事の内容を知っておけばまず大丈夫かと思います。
このお話が、皆様の住宅取得の際にお役立ていただけると幸いです。
当記事については、平成31年度税制内容を元に執筆しております。
詳しい制度内容につきましては、上記URLページをご参照ください。